いいえ、その日は舞台なので。

舞台へ通う金欠庶民の感想ブログ

2021【MOZART!モーツァルト!】

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 4/21 マチネ

帝国劇場にて

 

<キャスト>

 ヴォルフガング・モーツァルト:山崎育三郎

コンスタンツェ:木下晴香

ナンネール:和音美桜

ヴァルトシュテッテン男爵夫人:香寿たつき

コロレド大司教山口祐一郎

オポルト市村正親

セシリア・ウェーバー阿知波悟美

エマヌエル・シカネーダー:遠山裕介

アントン・メスマー:松井 工

アルコ伯爵:阿部 裕

アマデ:設楽乃愛

 

 

初の生M!でした。いやぁ~良かった。もうすっごいミュージカルしてた(頭の悪い感想)

音圧が凄いですね。最近二人劇ばかり観ていたので改めてアンサンブルさんの偉大さを感じます。人数が居るって凄いエネルギーだ。音楽は耳だけではなく身体で聞くものだと心底思いました。

久々の帝劇ということもあり感動もひとしお。帝劇ってこんなに過ごしやすい劇場だったでしょうか。座席間が狭く窮屈な印象しか無かったんだけどなぁ。視界を遮るものが一切なくてストレスフリー、音も良くて大変満足です。

(観劇後2014山崎verのDVDを観たので以下そちらの話もちらほらと入ります)

 

まず、全体としては(劇中の人物が)本当に誰も幸せになれない演目だなと。しかし音楽が良いので全てを許される…。いやでもラストの『影を逃れて フィナーレ』が無かったら床を見つめながら帰路についている気はしますよね。あのラストのお陰で物語と少し距離を取ることができる。

一幕はそれほどでもないのですが二幕を観ていると百面相をしてしまいます。DVDを見ている時に画面に映った自分の顔が険しすぎて笑ってしまった。

どの人物の視点で観るかによって大きく印象の変わる演目だと思いますが、どの角度から観ても結局不幸です。つらい。

 

前々から脚本は場面がぶつ切り唐突でアップダウンが激しく、イマイチ入り込めないような構成だなと思っていたのですが生で観ても印象は変わらず。

これはあれかな、ヴォルフの人生そのものと、ヴォルフを理解することができない凡人の視点を合わせてこういう構成にしているのかな。そう考えるととても良いですね。誰もヴォルフを理解できない。

 

 

モーツァルト一家を見ていて思うのは「人に依存した生き方は良くない」ってことと「お金は大事」ってことですね。

人によって幸せの形は違うのだから「私があなたを幸せにします」というような考え方はある種の傲慢であると思うのです。更にパパもナンネールもヴォルフを通じて自分の夢を叶えようとしている。これは重い呪いですよ。凡人でも逃れたくなるんじゃないかな(ヴォルフは意識的に家族から逃れようとしている訳ではないと思いますが)

保守的な家族と革新的なヴォルフはあまりに相性が悪い。相性の悪さって好き嫌いでは語れない部分があるから悩ましい。家族だと尚更ね…

 

あとお金は本当に大切だねぇ。お金が無いだけで人は余裕が無くなっちゃうからね。

「お前の名声は一人で築いたのか!」ってパパが言うのも分かるし「感謝してます」ってヴォルフが言うのも分かる…。

「何故愛せないの?」はそりゃ愛せないよ????と思っちゃうのですがヴォルフの視点だとまさしく「何故」なんだろうなというのは分かります。

ちょとした擦れ違いで家族って簡単に死んでしまいますね。ヴォルフは名声に執着するタイプでもないのだろうし、だから余計に自分が得ているものの大きさに気がつけない。

自分の常識とヴォルフの常識が違うことに気がつきつつも自分を正としてしまうパパには的確に気持ちを伝える術がない。言わなくても分かる、当然のことだと思っているからそれを説明することに思い至らない。または親のプライドが邪魔するのかな。息子は守るべきものだと信じて疑わないパパは傲慢だね。愛情深いとも呼ぶのかも知れない。

これを言ったら身も蓋もないのですがヴォルフの破天荒さが才能があることの反動みたいな描かれ方をしているけれど才能も何も無いのに破天荒な人が沢山いる世の中で才能があるだけ良かったのでは?と思う部分はありますね。今の価値観なので的外れなお話ではありますが。

 

自分はナンネールが一番可哀想なんじゃないかと思うのですが、ヴォルフは金使いは荒いけど家のお金を盗んでいくわけではないのだから結婚資金が無くなったのはパパが悪いのでは。

そしてヴォルフがうぬぼれやで金使いが荒いのはパパの教育が……いや、分かります、分かりますよ。親とはいえ一人の人間、人生一周目。自分とあまりにも性質の違う人間を育てるのは容易じゃないですよね。本当に大変だったと思います。いやもう誰を責めれば良いんだよ!!(苦悩の顔)

 

 

呪いと言えばヴァルトシュテッテン男爵夫人の印象が生とDVDとでかなり違いました。DVDで見た時はヴォルフの理解者・味方という印象だったのですが、生で観たらこの人も非常に重い呪いをヴォルフにかけている…。

『星から降る金 リプライズ』で「音楽に身を捧げるなら 全ての鎖 断ち切るの」って言葉を聞いた時ぞわっと鳥肌が立った。

管理人は生きることに真面目じゃない人間なのでどうしてそこまで…と思ってしまう…そんな思いまでしてやるべきことがこの世にあるとは思えないよ…

 

 

この日観劇したのは山崎ヴォルフだったのですが、育三郎さん以前より声出るようになりました?一時期声量が落ちたかな、と思う時があったのですが今回のM!は完全復活&パワーアップしていました。

2021のヴォルフは2014より大人びている印象。2021はお父さん心配しすぎじゃない?って感じがあったのですが、2014ヴォルフはこの子は一人で出歩かせるの心配!!ぽやぽやちゃん!!パパちゃんとそばについてて!!って感じ。

 

管理人は『友だち甲斐』の「友だち甲斐のないやつ」→「友だち甲斐のあるやつ」の流れが大好きなのでこれが端折れらたのは大変に悲しいです。

これがあるおかげで場面が深刻になりすぎず、行動のやばさとのギャップで観客が絶望できるのが凄く良かったのに。

お金を渡しちゃうヴォルフの反応、2014は「お祝いしなくちゃー!」と弾けていて単なるおバカさん(可愛い)って感じだったのが、2021は「お祝いしなくちゃ(当然でしょ?なんで驚いてるの?)」になっていてしっかりと自我を持ったやばい奴になっていましたね。2014よりも行動の破綻さが顕著になっているように感じます。

 

 

コンスについて。

木下コンス歌が上手い(知ってた)

木下さんはいつ観ても良いお仕事をしてらっしゃる。ロミジュリで観た時は内側から発光してるのかってくらいの清らかさだったのにM!ではちゃんとコンスしてますね…。あんなスレた感じの雰囲気も違和感なく出せるの凄くない?

ただ美人さん過ぎてちょっと目立ってた部分はあったかな。あの子絶対ヒロインじゃん!?という輝き。あんな美人さんヴォルフじゃなくても周りが放っておかないでしょ。

 

管理人の初見(DVDだけど)コンスはソニンコンスなのでソニンコンスを親だと思っているしソニンさんの『ダンスはやめられない』がやはり一等好きなんですよね。でも平野コンスを見た時に初めてコンスの解釈がピタッとハマった気がしました。

コンスが本当にヴォルフを愛していたのか、懐疑的だったのですが平野コンスは確かにヴォルフを愛していた。正直育ちは良くない、けれど彼女なりに全力でヴォルフを愛し、信じて、何よりも愛されたかった。そんな印象でした。

平野コンスを見て初めてコンスにとってもこの演目は悲劇なんだと思いましたね。他のコンスは自己憐憫による怒りが強いように感じたけれど、平野コンスは笑っていても怒っていても憐れで、初めてコンスを可哀想だと思った。ただ物凄い受け身なので、同じく愛を求めているヴォルフとは相性が悪かったなぁと。

 

 

大司教さま。

山祐さん、声量バズーカとは聞いていましたがまさかここまでとは思わないじゃないですか。本当に一人だけマイク壊れるのでは??って勢いだった。王家の紋章で聞いた時はこんなに激しく無かったと思うので抑えてらっしゃったのかな。

『神よ、何故許される』の「音楽の魔術」の「つ」で鼓膜が死ぬ。大司教さまのラスボス感大好きです。格好良すぎる。

 

 

シカネーダー。

管理人はこの演目においてシカが一番好きです。結婚(概念)してくれ。

シカってまず衣装が天才じゃないですか?何そのスタイルを強調する衣装。更にそこにステッキってもうなんなの格好いいしかないじゃん。グッドデザイン賞。最高。金を振り込ませろ。『並みの男じゃない』で踊ってるシカ可愛いが過ぎませんか…天使じゃん…DVDで見た時あまりの可愛さに先に進めず、同じ場面を1時間半くらい見ていました。

 

吉野シカは最早殿堂入りで狂おしいほど好きなのですが遠山シカも良かったです!

吉野シカはヴォルフと年齢が離れてる=シカの年齢が高いのにあのテンション・あのスタイルなのでああこの人はもう一生この感じで生きて行くんでしょうねって多少人としてのヤバみを感じる(好き)のですが、遠山シカはヴォルフより少しお兄さんって感じでワンチャン結婚などして落ち着く未来が想像できます。全体的に陽キャサークルのお兄さん。「私が誰だがご存知か?」も大学の新歓で言ってそう。

「無知蒙昧こそ人間の最大の悲劇なり」も吉野シカは一節をよむような気取った言い方だけど、遠山シカは「なんでおれのこと知らないの~もぉ~(ほっぺつんつん)」って感じ。飲み会のギャルかな?

今回(多分前回)から『チョッピリ・オツムに、チョッピリ・ハートに』の舞台セットが華やかになったの良いですね~!ここだけ映画の魔法みたいな演出。遠山シカは実質メリー・ポピンズ

 

 

人々の恐ろしさや呪いについては生で観た方が格段に感じるので未見の人は是非劇場で観ていただきたいな。

男爵夫人のことも怖いと書いたけれど、全編を通して人々の怖さと圧が異常なんですよ。まず小さな子を「神の子」と呼び祭り上げる所からして異常。人を神の媒体にしようなどと、繊細で脆弱な人類には行き過ぎた行為ですよ。

思えば皆ヴォルフに対し与えろ与えろと言うばかりで、ヴォルフに無償で何かを与えてくれる人は居ないんですよね。結局ヴォルフの人生は何だったのかなぁ…

 

 

2021版、キャストも変わって時間が経つし、ピアノを模した舞台セットも五線譜を模した燭台も素敵なのでDVD出してくれ~~~

今回東京公演が途中で中止になってしまい、酷い思いをした人が大勢いると思うのでどうか……勿論カンパニーや興業側が何よりも大変なので無理は言えませんけども。皆さんのパフォーマンス、とても良かったから残して欲しいなぁ…。