いいえ、その日は舞台なので。

舞台へ通う金欠庶民の感想ブログ

2020『フリー・コミティッド』


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11/18 マチネ
11/30 配信
DDD青山クロスシアターにて
 
2年振りの再演。管理人は今回が初見でした。
1人30役以上、1時間50分。ずっと1人を見続けられるなんてどんな幸せ?と存在を知ってからずっと観てみたかった演目。(以下、便宜上1人38役と表記)
 
[ざっくりなあらすじ]
売れない役者であり、マンハッタンの人気レストランの電話係であるサム。ある日出勤すると自分以外の電話係が誰もいない。ひっきりなしに鳴る電話。既にオーバーブッキングしまくりの予約。自由で我儘な客たち。横暴なシェフにどやされながら、トラブルが次々と起こって…!?
 
まずこの演目(演者)の凄いところは観劇中「うわ凄い!」と思わないところですね。
同業の方が観たらまた違うかも知れないけれど、少なくともただの客として観ている分には普通にストーリーを追ってしまった。1人38役が全くノイズになっていない。観劇後にふと「そういえば1人だったんだな…やばいな…」と気がつく。
ラストあたり、ずっと電話を受け続けていたサムが電話をかけるシーンがあるのですが、みんな電話に出ず留守電になってしまうので「あああ~なんでみんな電話出ないの~~!いい知らせだよ!」とじれったくなってしまった。
“なんで”も何も1人で演じているのだから出ないのは当たり前である。本気で残念に思ってしまった。(1人で演じているので出ることも可能だがあのシーンは出ないのが良い)
 
この演目は管理人が観るには珍しく、本当に珍しくライトな演目だったと思う。
初見時はあまりの労働環境の酷さに憤りさえ覚えたけれど2度目(配信だったせいもあるのかな)は非常に楽しく観ることができた。基本的に演劇を観る時はきちんと環境と心を整えて集中して観たいタイプなのだけれど、フリコミは温かい飲み物を用意して片手間に編み物でもできそうな雰囲気だった。そうして他の事に目を向けていてもしっかりストーリーは追っているし笑いどころはしっかり笑える。そんな演目。演者の言う『真剣に観ないで』を少し体現できた気がして嬉しく思う。
自分が観劇初心者の人に勧めるならこの演目にするかも知れない。
…いやどうかな、1人38役は逆にハードルが高いのか?エアテニスやエア自転車が何の問題もなく見えてしまうオタクなので非オタクの感覚が分からない。
 
 
(追記)
『労働環境の酷さに憤りさえ覚えた』時のメモが残っていたので載せておきますね。
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ブチギレとるがな。
自分よく初心者に勧めるとか言ったな?まぁ『ライト』って言うのはつまりそういうことです。明るく、軽い。多分そこは真面目に受け止めちゃいけないところ、っていう。ライトに観る分にはとても楽しい演目かと。
 
 
ところで今回フリコミは再演だった訳ですが、初演とは随分と変わったラストだったそうで。
再演の方が戯曲に近く、初演はどちらかというとわだかまりの残るラストだった模様。聞いた限りだと「酷い職場環境に鬱屈したものを抱えたまま、コネや金に手を出した自分の無力さを感じ、それでも日常に戻っていく…」という感じでしょうか。お金は受け取らずに去るようなので拒絶・決別のニュアンスが強いのかな。
非常に日本人らしいですよね。メランコリーでしっとりしてる。頑張ってる人大好きですしね、日本人。 スカッとはしないけど共感性は高い。
 
打って変わって再演。「何やかやでシェフからイニシアチブを奪い、ちゃっかりコネとお金をゲットして何だか良い流れの予感。自分の時代が来ちゃったかも」と分かりやすくビクトリーな物語でした。こちらは綺麗に纏まってスッキリするけれど共感はしづらい。 もしフリコミが1人で行う演目でないのなら、再演時のラストは少々薄っぺらく感じてしまうかな。
 
正直自分のヘキとしては初演が刺さるのではないかと思うけれど、再演は再演でとても良いなーと思っています。寧ろこんなにも“アリ”な物語のラストを初演でよく変えたな?という感じ。そのアグレッシブさだったり「伝える」ということに関する貪欲さは非常に貴重なものに感じますね。
 
再演は配信があったのも良かったポイントだと思う。大抵の場合、演劇をカメラ越しに観るとどうしてもカメラワークに不満を覚えてしまいがちだけれど、何しろ演者が1人なものだからカメラワークへの不満が(ほぼ)無い。ストーリーも相まって配信と相性が良かった。
 
 
余談ですが、英語版の台本には38役中32役しか記載されていないようですね。
管理人のお気に入りはMrs. Vandevere(セレブで超超超VIP)とJean-Claude(フランス人のレストラン案内チーフ)
千穐楽のMrs. Vandevereは声の深みが増していて更に良かった。紛うことなきマダムでした。
Jean-Claudeはサムに向けてきっっつーい言葉を投げたり女性客にとても失礼だったりするけれど声の質が好みでした。あの声で1本何かやって欲しい。
 
そして別枠ですが、フリコミ観劇後からふとした瞬間「ハァーイ!↑ブ~rrrrライスでーす!↑」が頭の中で響く身体になってしまっています。いつ頃ブライスが身体から抜けてくれるだろうか。