ご注意
都内某所で行われたイベントの備忘録です。
例の注意喚起ですが、
・その場で発言をしましょう(後になってあの時は、あの人は、あの質問は、と言うのは無し。疑問や意見があればその場でディスカッションすること)
・参加者の発言は受け取り手によって本人の意向と違うものになる可能性があるためネットに上げるのはやめましょう
・成河さんの発言を書くことは問題ありません
以上三点の解釈をもって一部のみ執筆いたします。
下記の質問者は管理人本人、その他の発言内容は全て成河さんのものです。
全ての発言を正確に書ける訳ではありませんので実際の発言とは異なる場合があります。
ご了承の上お読みください。
こちらの掲載内容について問題が生じた場合は速やかに削除いたします。
Q.冒頭、ブルースとクリスのシーンについて。
何度目かの「座って」というセリフが「腰、下ろして」に変わりますが何か意図があるのですか。
砕けた言い方、友達ぶった言い方をしているんだと思います。
このセリフは恐らく初演の時も同じセリフでした。
日本語は同じ意味の言葉が沢山あるからどの言葉を使うのか翻訳家さんはとても悩みます。
日本語は使う言葉によってキャラクターが想像できるので、それが面白いところだけれど難しいところ。
キャラクターを作りながら訳すのが良い翻訳とされているけど、それは稽古場での選択肢を奪うことになりかねません。優れた翻訳家さんはそれをご存知です。
英語の情報量が盛り込めない、英語にある俗っぽさの表現が日本語にない場合に主語や語尾で表したりすることがある。
例えば「あっし」とか(笑)
でも「『あっし』ってやめて良いですか?」っていう議論も稽古場ではしたい。
あまり出来ないことだけど、それを今回はしたし出来たのが嬉しかった。
日本語で翻訳されたものが唯一全員が持つ共通のルールなので、あまり破ると大変なことになる。
だから(今回のようなことをするには)絶大な信頼関係が必要です。
役者は基本的にセリフを自分の言いやすい言葉に変えるのはやってはいけないことです。
外国人作家の方が年齢設定を変えてやってみなよと言えちゃうのは英語だからで、日本語は年齢が表されているから凄く選択肢が狭まる。
僕たちは原典を読んでその選択肢を戻したい。
それに(翻訳家の)絵梨子さんが物凄く真摯に関わってくださった。
千葉さんへの信頼があってこそですが、絵梨子さんが「任せました」と言ってくださったので自分としても初めてというくらいに目茶苦茶にセリフを弄りました。
僕だけじゃなく千葉さんも章平も。
つまり自分のセリフを自分しか知らないんです。
語尾とか言い回しを自分なりに考えて弄ったので、互いに相手のセリフを厳密には知らない。
絵梨子さんが「あと1,2週間ください。もっと厳密に訳します」と言ってくれたタイミングがあったけれど、絵梨子さんが非常に忙しかったこともあって「このくらいからみんなで深めていくのはどうですか?ここから先は現場で翻訳を作って良いですか?」ということになった。それが吉と出ました。
凄く好きなセリフ
「間違った言葉を使うとその言葉から間違った意味や解釈をしてしまって正しく治療することができない」
(今喋ったのを聞いていて)とても自然だったと思います。
でも文章で書くと日本語の文法として変なんです。非常にブロークンジャパニーズで、こんなに間違った日本語はない。
こういう文章を翻訳家さんは書かないし、こういう言葉を劇中で喋れることは中々ありません。
少しでもちゃんとした日本語にするなら
「間違えた言葉を使っていると、その言葉を間違えた意味で捉えたり、間違った解釈をしてしまったりするじゃないですか」になる。
でもこんなに回りくどく喋ることはない。
先ほどのセリフが普段の喋り言葉なんです。
日本語の場合、喋り言葉と書き言葉が異常に離れるので、それが翻訳劇の一番難しいところ。
これを近づけるには凄く時間がかかって、役者同士が顔を合わせて信頼関係を作らないと出来ないことだからとても大変。
どのプロダクションでも出来る訳じゃありません。
皆さんが舞台で聞いた言葉で「本当かなぁ?」と思った時にはすぐにプロデューサーさんと翻訳家さんの名前を見てください(笑)
他に気に入っているセリフ
「お前ほんと馬鹿だなクソ頭悪い何なんだ」
これ凄い好き!
翻訳劇だとこんな風に書いてくれる人は少ない。
絵梨子さんでさえもうちょっと硬い言葉で書いていました。
「やばいっしょ」もかなりスレスレの選択で本当に悩んだ。
「Do you know what I mean?」
直訳で「言っている意味が分かりますか?」
原語を読み込むと「意味が分かるかどうか」ということが伏線として常にある。
ブルースが泣いてクリスに慰めて貰っている時「僕の言ってること分かるか?」に対して「馬鹿にすんじゃねーぞお前」という言葉が返ってくる。
「何を意味して喋っている?」というのが全編を通して貫かれています。
ただ(原語と)どちらを取るかって話なんですが、今回はかなり壊れた。壊れているけど生々しい日本語を選択しました。
Q.後半のロバートとブルースのシーンについて。
「先生の教授職は?教授職だって」と繰り返すセリフが気になる。原語もこのままのセリフですか。
原語では繰り返していないけど、絵梨子さんの翻訳がそういう翻訳でした。
(何度もセリフを口にしてみて)喋ろうと思って元々準備してた言葉じゃなくて喋っている内に出た言葉という感じがする。
物凄い考えがあって策略として練って準備した言葉じゃないんだろうなって。
(戯曲を改めて確認して)大分意訳してるね!?すっげぇ意訳してる絵梨子!!!?
一度だけの問いかけだと、凄く作戦があるように見えるけれどそうじゃない。その直訳のフィーリングを出すために絵梨子さんは繰り返すということを敢えて選んだんだと思います。
…一行訳すだけでこんなに時間かかるんですよぉ!!(戯曲から該当のセリフを探し直訳して前後の文章との兼ね合いをみて成河さんならどう翻訳するか考えた上で絵梨子さんは何故この言葉を選んだのかというのを時間をかけてとても真摯に考えてくださいました)
何が訳されているのかどの言葉を使おうかというだけでも時間がかかるし、それぞれの意見が違ったりもするし…それが今回すごくね、うまくいったよ?(ぶりっこの顔)
そういう言葉を生々しくぶつけ合えると兎に角楽しいんです。
この楽しさってきっと伝わると思うし、それを信じています。
だから今回そこに時間をかけられたのは良かった。
セリフを弄ることに章平は最初物凄く戸惑っていたけど途中からどんどん弄りだして良いぞ!良いぞ!みたいな(笑)
やはりあれだけ言葉を弄るのは怖いですね。
エンターテインメントという言葉について
エンターテインメントの語源は「保つ」という言葉で、「間を繋ぐ」ということ。
理解され得ない何かがあった時にそれをそのまま渡すのはとても簡単ですが、それではあまりにも共有ができない。
エンターテインメントとそうじゃないもの、と分けるのは僕は間違いな気がしています。
二つは補いあって一つのものを作っているということがどう考えても正しい語源なんです。
エンターテインメントだけであるものは有り得ない。
ミュージカルは「小難しいことをやめた」のではなく、「小難しいことを噛み砕くため」に音楽を使ったんです。
政治的なこと、ハッキリ言うと人を傷つけたりバッシングを受ける可能性のあるものを暗号にして届ける為に音楽を使った。
根っこの本当に言いづらいことには文化的・社会的な背景があるものだから、そこを抜いてしまうと場繋ぎの人だけが残ってしまう。
表面的には楽しいけれど「何を伝えるものだったのか」が大事。
エンターテインメントは手段であり技術であるということです。
エンターテインメントの無いものなんて本当は存在しなくて、
そういう話が……あるんだぁ(熱く話されていたのに急に素に戻る成河さん)
これすごい好きな話でね?(急に子供のような話し方になる成河さん)
了。
お粗末さまでした。