いいえ、その日は舞台なので。

舞台へ通う金欠庶民の感想ブログ

氷艶2019 感想


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 7/28マチネ 横浜アリーナにて。

 

あらすじは引用すると長いので省きますがざっくりいうと「恋愛要素を8割削減した源氏物語」でした。観劇後、自分を含め周りの人が源氏…もの…がたり…?となっていたので強ち間違っていないような気がいたします。以下良かったところとイマイチだったところを項目別に。

 

良かったところ

・キャスト

あらゆる分野から選ばれたキャストはさながら異種格闘技戦という感じで、それぞれが一線で活躍されている方ということもあってか新しく習得することよりも長所を最大限に活かし全力で殴ってくる潔さを感じました。チラホラと「この人役者さんだったっけ?この人スケーターだったっけ?」という方もいてポテンシャルの高さに舌を巻くほかありません。とても贅沢なエンターテインメントでした。

個人的に一番好きだったのが荒川静香さん。まず第一に美しい。そして立ち昇る様な感情の起伏。桐壺への嫉妬を燃やすシーンでは怒れる龍のようでした。弘徽殿女御は衣装や演出的にも、外的な要素を使って感情を醸し出すことに重点を置いていたのかなと思います。

 

光源氏役の高橋大輔さんは陽のイメージが強かったのですが本作では儚く繊細で優美でした。『月光かりの如く』という副題がぴったりですね。上で「恋愛要素を8割削減」と書きましたが確かにこの人に寝取り浮気幼女趣味をさせる訳にはいかないなと…(マイルドになって回数が減っただけでしてるけど。まぁ源氏はプレイボーイですが生活の面倒をみてくれますし、当時の女性の立場を考えればどうせ所有されるのなら美しくて優しい人が良いというのは最もな話なので源氏を今の価値観で語るのは間違っていると思いますが。)

大輔さんの演技は初めて拝見しましたが、声に幼さと脆さと孤独が詰まっていてこの舞台の源氏にとても合っていました。

 

 

・会場の活気

本編と関係のない話で恐縮ですが備忘録も兼ねているので書かせてください。

開場30分ほど前に会場についたのですが特に列を作らずとも皆さん行儀よくならんでいて、炎天下の中でもどこか和やかというか悲痛さの感じない待機列でした。(スケートファンの方々の雰囲気でしょうか)

案内をしているスタッフさんが事前の注意事項で再三「焦らないように、走らないように、足元に気を付けて」と言っていたのに開場間際になると「開場しますと声をかけたら皆さん“一斉に”…アッチガウ」と完全にオタクの習性を分かった発言をされていて笑いが起こったり。(今のは言い方を間違えました!声をかけたら“ゆっくり”と入場してください!と訂正されていました)

 

物販列がやばいと初日組から聞いていたのですが、改善されたのか早めに行ったからなのかスムーズに購入できガチャにも挑戦して、出なかったものは交換して頂き、開演前に非常に有意義な時間を過ごすことができました。テーブルやトイレが沢山あるのも良いところでしたね。空間自体人が多い割にごちゃついていませんでした。

 

普段(広い場合)2000席弱の劇場に慣れている身なので1万超えのキャパシティは想像以上に圧倒されるというか、席についてぐるりと会場を見渡すだけでワクワクするものですね。ライブとは違いスケートリンクは低い位置にあるので余計に会場が広く見えたのかも知れません。管理人はスタンド席だったのでよく観えないかも知れないと思っていたのですが物凄く視界が開けていてちょっと感動しました。こんなに良く見える舞台ってあるのかよ…傾斜大正義。

 

 

プロジェクションマッピング

スケートリンクを使う性質上、大きなセットをいくつも用意するのは難しいと思うのですが、プロジェクションマッピングを使用して上手く場面転換していました。全面に星・草花・波などが映されるのですが特に良かったのが源氏と朱雀君が和歌を詠むシーン。歌に合わせて二人が滑り、その軌跡に墨の文字が現れる演出はスケートと舞台を組み合わせた本作ならではでした。

源氏が藤壺の後を追うシーンでは廊下が映されて、開けた場所で演じているのに曲がり角を使いながらこっそりと追いかけている様子が見て取れて良かったです。見下ろす形の会場なので席が遠い人ほど綺麗に見えたのではないでしょうか。

 

・転換の速さ

リンクが滑るためかセットの転換と演者のポジショニングが速く、転換中も誰かしらが滑っているので見ていて楽しいです。

 

 

イマイチだったところ

・照明

演者を追うスポットライトが遅れたり外れたり動きもカクカクで凄く気になりました。あれはスケートではよくあることなのでしょうか。恐らく手動ではなく機械制御ですよね?(手動ならあそこまで外れないと思う)横アリの機材が良くないのか…いやでも他のライブで気になったことは無いけどなぁ

 

・音響

もっこもこのモッヤモヤでしたね。特に低音はもっと頑張って欲しかった。

セリフは聞き取れるのに歌になると途端に8割がた聞き取れなくなるので他の音との兼ね合いが悪かったのでしょうか。センターステージは音が作りにくいと聞いたことがあるし、特殊な舞台だからスピーカーの設置に制限があったとか?

 

・脚本

管理人が一番もやっとしてしまったのが弘徽殿女御の扱いなのですが、構図的に勧善懲悪のような書かれ方をしていて弘徽殿女御をそこまで悪く言う必要が分からず戸惑いました。せめて朱雀君が味方であれば源氏側と朱雀君(弘徽殿女御)側でしっかりとした対立の様子が分かりますが、弘徽殿女御は朱雀君に刺されて亡くなりますし、結果彼女の正義とは?愛とは?彼女一人を悪者にしてそれで全部終わりなんですか?という不満がありました。

でも原作によると弘徽殿女御にはかなりの嫉妬と憎悪があったのですね。朱雀君も心の弱さ故に傀儡的な存在であったと。しっかり原作を踏襲した上でのあの場面ようで、無知がお恥ずかしいかぎりです。

となると源氏を殺そうとした弘徽殿女御を朱雀帝が刺したのは母に対する最初で最後の反抗だったのか…めちゃくちゃいい話じゃん…

原作では『須磨に流された源氏を弘徽殿女御の反対を押し切って帰郷させた』というのがこの部分に当たるのでしょうか。

 

桐壺帝が亡くなった後、弘徽殿女御は随分と好き放題していたようなので圧政をしく描写は悪くはないと思うのですが、それでも長道が民を斬り殺す必要性は感じませんでした。あれは予定調和じゃないかな…原作にも民を惨殺する描写ってありましたっけ?

後に長道をラスボス的な存在にするのなら残虐性を示すこともアリだと思いますが、長道はあくまでも弘徽殿女御の側近という立場からは出ませんでしたよね。源氏を殺すのでまぁラスボスといえばラスボスなのかも知れませんが。最終的な悪を長道に持っていくのならラストで何かしらの罰が欲しかったです。

 

対立といえば源氏側はめちゃくちゃ「立ち上がれ!自由を勝ち取るぞ!」的なことを高らかに謳いますけどそれ、お前が言う???今まで浮き草のように自由に生きてきたよね???

(この舞台では)朧月夜に手を出していない分、多少正当性がありますがそういうセリフって今まで社会的に迫害されてきたような人が言うやつじゃないです?

紫の上を狙われて逃げざるを得なかったことを考えると確かに追われた感はあるのですが、なんか、こう、主人公側を全然応援できない…!

 

松浦は男として育てられた女海賊というとても良い設定なのに歌って恋してあっという間に自害させてしまって勿体ない。もっと良い使い方があったでしょう!意義のある死が!せめて陰陽師と刺し違えてくれ!(陰陽師に操られ味方に攻撃してしまうことを防ぐため自ら首を切った)

陰陽師は源氏の笛の音で倒す…ってなんですかそれは。いや呪いが存在する世界だからアリといえばアリなのかな…。掘り下げるつもりが無いのならキャラを濃くする必要はあったのでしょうか。

元トップスターの方だから男役のような立ち位置で歌わせたかったのは分かるのですが、だとしたら音が残念すぎましたよ!

 

頭中将は最初から最後まであまりお役目を果たしていませんでしたが大丈夫ですか。源氏が「私は誰も幸せにできない…!」と嘆いている時にそれは頭中将では?と思ってしまった。

源氏が殺された後、藤壺から冷泉帝(藤壺と源氏の子供)を預かりますけど、その人に預けて本当に大丈夫ですか?周囲の人間が高確率で死んでおりますよ?

福士さんの頭中将は少し情けないというか二枚目よりは三枚目という雰囲気で、もっと厳かな雰囲気の役だと思っていたので意表をつかれたのですが、この脚本からするとあのくらいの頭中将が丁度良いのかも知れません。

あと頭中将は本当に急に歌い出しますね。ビックリした。よく「ミュージカルは急に歌い出す」なんて揶揄されますけど、彼ほど急に歌い出したのは管理人の観劇人生で初めてでした。

 

 

贅沢だったし楽しかったけれどもやっとした部分も残る舞台でした。

観劇後に改めて源氏物語を読んでみると新たな発見があり面白かったです。異種格闘技戦ということで色々な知識が必要な舞台だったのかも知れません。スケートファンの視点から見るとまた全然別の感想が出てきそうですね。

本作は、フィギュアスケートというものを体感できる貴重な機会を頂けた舞台でした。ありがとうございました。