いいえ、その日は舞台なので。

舞台へ通う金欠庶民の感想ブログ

海辺のカフカ 感想


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6/4 海辺のカフカ観劇

赤坂ACTシアターにて。

 

観劇にあたって原作である村上春樹さんの小説を読みました。恥ずかしながら村上さんの小説を読むのは初めてだったのですが率直に面白かったです。

『余計な描写が多い』という感想もチラホラと見聞きしたのですが…うん、確かにそれは分かる。ただどこを余計と思うかは人それぞれで、お話の中にとても印象的で素敵な言葉が沢山あるので一概に悪いとも言えない気がします。個人的にはカフカくんパートよりナカタさんパートが好きでした。

全体の印象としては『水の中から世界を見ている』だったのでアクリルケースに入れられた舞台セットはピッタリで、この美しい舞台を観られることがとても楽しみでした。

 

個人的にこの小説は舞台にとても向いていると思っています。それはこの小説が、小説内のキャラクターの人生ではなく作者の伝えたいことを代弁する者であると感じたからです。それはとても戯曲的だなと。

そしてこの戯曲的な、様々な解釈をする余地のある小説を舞台にするのなら、ある程度方向性を示してより意図が分かりやすくなるのではないかと期待していました。

 

ですがまぁ実際の舞台は予想とは違って「謎」を「謎」のままぶつけてくるというかなりロックな脚本でした。原作未読の人間を誘導しようという気持ちが微塵も感じられない。ついて来れる奴だけがついてこいという強い意思。あまりにも観客を信頼している。宮崎駿氏かな?

果たして何人の人がついてこれているのだろうか…という何だかよく分からない緊張を感じながら観劇していました。

 

舞台の感想としてはうーん…。原作を読んでいるのでとても忠実に再現された舞台だということは分かります。でもそれだけというか。原作以上に何かを受け取ることができませんでした。原作を超えることは勿論できないしそれをメインに据えるべきではないと思いますが、だとしたら原作と違ったアプローチが欲しかったです。

再現性の高さがこの舞台の肝であり評価されている部分だというのは分かるのですが、わざわざ舞台にする意味が自分には良く分かりませんでした。だったら小説を読めば良いのでは…?

レタッチされた写真のように、実物より鮮やかな色で描くように、原作以上の何かを与えてくれるものであれば良かったなと思います。

 

忠実に再現、とは言いましたが原作のメインテーマである「呪いの克服」のことは丸っと無視されているんですよね。呪い無くしてこの物語は成立するのでしょうか。この話はオイディプス王が元になったものですよね。オイディプス王は呪いを成就させてしまい自らの目を潰し王位を退いた。カフカくんは呪いを成就させないために家を離れ、メタフォリカル的に呪いを成就させることで呪いを避け、現実世界へ帰ってゆく。そういう話では…?

呪いのことに触れられないので佐伯さんとセックスをする意味が分からないし佐伯さんが本当のお母さんだと思った人も多いのではないでしょうか。

 

楽しみにしていた舞台セットも、動かす方々の反動をつけた動き(あれだけ大きな物なのでスムーズに動かすのは難しいと思います)やタイヤの音が気になってしまい…幻想的な世界と物凄くアナログな世界が入り乱れていて自分の求めていたものとは違いました。

あとカフカ役の方…あれはアレで良いんですか?いや良いなら良いんですけど。セリフの音が抜けるのが物凄く気になった。あの話し方が15歳の未熟さやたどたどしさを表していると言われればもう何も言うことはありません。

 

好きだったところ。

ジョニー・ウォーカー、さくらさん、カーネル・サンダースはあまりにも想像どおりで感動しました。声や喋り方もピッタリ。ジョニー・ウォーカーが猫の心臓をちゃんと食べていたのも良かった(良かった?)です。背が高くてどっしりとした雰囲気なのに軽やかにテーブルを乗り越えるので驚きました。

登場人物の中で自分はホシノちゃんが一番好きなのですが、ヒョロっとしていてガラの悪いホシノちゃんを想像していたら高橋さんのホシノちゃんは優しくてお育ちが良さそうでした(笑)

 

不満はあったものの、この舞台を観劇できたのは貴重な体験だと思いますし大切にしていきたいです。海外の人達はどこをみて何を評価したのかなぁ…気になるのでぼちぼちとリサーチしたいと思います。

あ、個人的カフカの1番良かったところはグッズです!グッズのデザインが秀逸!デザインされた方、携わった方々、良い仕事をありがとうございました。