いいえ、その日は舞台なので。

舞台へ通う金欠庶民の感想ブログ

骨と十字架 感想



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[公式サイトより引用]

進化の道をたどることは神に反することなのか――
実在した、古生物学者・神父テイヤールが信じる道とは......


進化論を否定するキリスト教の教えに従いながら、同時に古生物学者として北京原人を発見し、一躍世界の注目を浴びることとなったフランス人司祭、ピエール・テイヤール・ド・シャルダンの生涯。どうしても譲れないものに直面したとき、信じるものを否定されたとき、人はどうなっていくのか、どう振舞うのか。歴史の中で翻弄されながらも、懸命に、真摯に生きた人々を描きます。

 

7/27マチネ

新国立劇場 小劇場にて。

 

開幕後から少しずつ評判が聞こえてきてはいたもののスケジュール的に観劇は叶わないだろうと静観していたのですが、観た人観た人みんなが絶賛していたので我慢できずに土壇場でスケジュールをこじ開けました。

 

率直に言うと面白かった。これこれこういうのをもっと観たい!私が観たい演劇ってこれ!という興奮もあったし、止まることの無い歩みの勇ましさとヒビが入り砕けそうな葛藤の美しさで涙が出ました。けれど更に率直に言うと何かが残る演目ではありませんでした。

真逆のことを言っているようですが嘘偽りのない気持ちなのでそのまま記しておきます。

 

この演目が売りとしているのは「進化論とキリストの教えという相反するものが同時に存在した場合に人はどうするのか」ということだと思うのですが、進化論と宗教がメインかと思えば専門用語も少なく(ある種分かりやすい)観客に対し知識の共有を求めることは無い。相反するもののぶつかり合いかと思えば言葉遊びは少なく物理的な暴力は無い。そしてそのメインテーマともいえる問の答えを明確に出すことなく終わる。簡単に言えばあらすじに書かれている以上のことが何も起こらない。

それなのにこれ程までに満足度が高く評判が良いのは本当に凄いことだと思います。そのような結末の舞台を他で観たことがありますが、その時は「いやそこを観に来たんですが…」と暗澹たる思いで帰路につきました。何だか分からないけれど強い引力があるのは戯曲の力か…それとも演者の力でしょうか。

 

管理人は進化論にも宗教にも明るくありません。つまりこの演目では人間模様を観ることがメインになりました。というか最早そこがメインですよねこの演目。当時の時代背景やそれぞれの立場、宗教、進化論について詳しく知っていればもっと楽しめたのだろうなと思うのですが何も知らなくても楽しめたので問題は無いです。

『何かが残る演目ではなかった』というよりは演目で何かを残すのではなく、『観た人自身がこれから踏み出す』ための演目という印象です。

だから『面白かったし心が動いたけれど何も残らなかった』

この感想が、少なくとも今は、最も心の状態に近いと思います。

 

この戯曲を日本でやるって結構凄いことだと思うのですがどうでしょうか。日本だからこそできたのかも知れませんが、これを日本人が作るかぁ〜と唸りました。

役者さんは皆さんいい声ですね。セリフが聞き取りやすくて有り難い限りです。登場人物の中ではエミールが最も管理人の癖に触れたのですが、伊達さんのメガネキャラは色々な意味で狡いです。まずビジュアルからして刺さるに決まっているし斜に構えた雰囲気や皮肉っぽい表情も言動も良かった。エミールのその前とその後を知りたいです。

 

新国立劇場の小劇場は初めて入ったのですが最後列でもそれなりに近く、傾斜があるのでどこの席でも観やすそうでした。好きになりそう。

劇中では照明を使いつつ暗闇と蝋燭の火も効果的に使われていました。本物の蝋燭を使っているので短くなった蝋燭や真新しい蝋燭、火の動き、影の揺らめき、消した時の香りがすることがとても良かったです。ライフルも火薬を使っていたので満足の音でした。エリザには是非見習って頂きたいです。